2025年に大阪・関西万博が開催されるため、インバウンド需要が高まると予想されています。中国・四国地方は日本海・瀬戸内海と太平洋に面しており、隣接する関西地方を含めた地域間の交流が盛んです。広域連携に積極的に取り組み、訪日外国人旅行者の増加による観光消費額の拡大と持続可能な観光を推進しています。しかしながら、観光業は光熱費や食材などのコスト増に加え、人材不足の状況です。本記事ではまず、中国・四国地方における訪日外国人旅行者の特性や需要動向を解説します。続いて、現在おこなわれている中国四国の広域連携についてご紹介します。
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1.中国・四国地方における訪日外国人旅行者の特性や需要動向
中国・四国地方では、新型コロナウイルスの感染が拡大していた期間にインバウンドが激減しました。2022年10月に水際対策が緩和されて以降、訪日外国人旅行者の数は少しずつ回復傾向にあります。
2022年の1年間で中国・四国地方を訪れた外国人の延べ宿泊者数は約370,000人。前年に比べると111.6%の増加です(※1)。2017年のブロック別外国人の延べ宿泊者数の割合を見ると、関東・近畿の割合が高く、四国地方は1.1%、中国地方は2.1%に留まっています(※2)。
※1)公益財団法人日本交通公社 旅行年報2023
※2)中国運輸局観光部国際観光課 中国地方のインバウンド観光の現状等
1.1 中国地方の特性と需要動向
中国地方は原爆ドームや厳島神社などの世界遺産を擁しており、海外での認知度は高い状況です。2023年5月19日〜21日の期間には「G7広島サミット2023」が開催され、参加国・招待国を始めとする多数の関係者が中国地方を訪れました。
2023年11月30日に発表された観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2023年9月に日本国内を訪問し宿泊した訪日外国人の数は982万人。2019年の同月に比べて18.,9%増加しました。中国地方の各県の延べ宿泊者数は次のとおりです。
引用:観光庁 宿泊旅行統計調査
1ヶ月間の外国人の述べ宿泊者数が100万人を超えた都道府県は、東京都・京都府・大阪府のみです。10万人以上がこの3都府以外に、広島・北海道・千葉・神奈川・愛知・福岡・沖縄となりました。
1.2 四国地方の特性と需要動向
2023年の「世界の持続可能な観光地TOP100選」に日本から10地域が選出され、そのうち3地域が四国地方の以下の都市です(※3)。
・香川県丸亀市
・徳島県三好市
・愛媛県大洲市
観光地としての革新性や、サスティナブル・ツーリズムが優れている旨がグリーン・デスティネーションズのWebサイト上で紹介されています。
水際対策緩和後の2023年は、全国的にインバウンドは増加傾向にあります。四国の2023年9月の外国人宿泊者数は、香川県を除く3県でコロナ禍前の2019年よりも伸長しています。
引用:観光庁 宿泊旅行統計調査
とくに高知県は日本人の宿泊者数も伸びています。NHK連続テレビ小説「らんまん」の舞台になったことも影響していると推測されます。
※3)グリーン・デスティネーションズ 2023 Green Destinations Top 100 Stories
2.中国・四国地方の地の利を活用したインバウンド施策
中国・四国地方は瀬戸内海を中心に、海路を通じた圏域交流が長年おこなわれてきました。本四架橋の開通によって交流人口が増加を続ける中、両地方の経済・生活・文化の一層の発展を目的に交流促進に取り組んでいます。
ここからは中国地方・四国地方のインバウンド施策をご紹介します。
2.1 中国地方のインバウンド施策
中国地方のインバウンド施策について、県ごとに事例をご紹介します。
2.11 鳥取県
鳥取県では、インバウンド関連のプロモーションとしてターゲットとする国の旅行会社・メディア・インフルエンサーなどを招いて現地視察してもらうFAMツアーを開催。さらに、韓国や台湾・中国・シンガポールなどの旅行博へのブース出展をおこない、県のPR活動に積極的に取り組んでいます。
そのほか、インバウンの受入れ体制を整えるためにおもてなし研修を実施。宗教や健康などの理由により多様化する食生活に対応するためのベジタリアンメニュー・商品の開発等を学ぶ実践講座を開催しています。
2.12 島根県
島根県は出雲大社・松江城・世界遺産の石見銀山や国立公園の隠岐諸島など、海外にも認知されている観光スポットが多く存在する地域です。島根県ではインバウンドを誘客するための補助金が充実しており、旅行ツアーを作成する旅行会社などに助成金を出しています。
島根県では「しまね観光案内サインガイドライン」を策定し、訪れる方が観光しやすいように案内板を整備しました。さらに、英語を始め中国語・韓国語・フランス語・タイ語に対応した「しまね観光ナビ」では、観光のモデルコースを紹介しています。
2.13 岡山県
岡山県では、インバウンド推進を図るための観光情報の発信に力を入れています。岡山への来訪数の多い台湾を始めとした東アジア、タイやマレーシアなどの東南アジア、フランスやアメリカなどの欧米に対し積極的にプロモーションを展開しています。
特に、岡山空港から定期便が就航している台湾には、知事が直接訪問しておすすめスポットや関西・四国へのアクセスの良さをアピールしました。台湾向けPR動画の作成なども積極的におこなった結果、定期便の搭乗率は好調に推移しています。
2.14 広島県
広島県は中国地方の他県に比べて、訪日外国人の宿泊数が多い状況です。ただし、外国人が観光に訪れる際、日帰り利用者が多く消費単価が上がらない課題もあります。
広島県では課題を解決すべくひろしま観光立県推進基本計画(令和5年度〜令和9年度)を制定し、観光消費額の増大を目標に掲げました。特に観光消費単価の高い訪日外国人の宿泊数を増やすことを目標に、年間を通じたプロモーションをおこなっています。
また、2023年5月に開催されたG7広島サミットを契機に外国人観光客の回復を見込み、インバウンドの関心が高い持続可能な観光プロダクトの開発に取り組んでいます。具体的にはEV(電気自動車)を利用して移動時のCO2の排出量をゼロにするゼロカーボンツーリズムなどです。開発した観光プロダクトの満足度や魅力を高めるために、ガイドの質向上にも取り組んでいます。
2.15 山口県
山口県では、インバウンド需要の回復を見込み海外からの誘客を増やすために、海外へのプロモーションの強化に努めています。インバウンド誘客を強化する施策として実行しているのは以下の3つです。
・新たな観光コンテンツや周遊ルートの造成
・クルーズ船誘致の推進と受入れ促進のため寄港環境を整備
・国際航空路線の再開と定着
目標数値も設定し、インバウンドの誘客拡大を目指しています。
2.2 四国地方のインバウンド施策
四国地方は訪日外国人の誘客数が少ない状況を打破すべく、様々な施策に取り組んでいます。
2.21 徳島県
徳島県では、県内外の認知度向上やブランディングに課題がありました。外国人が訪問する人気観光スポットの大歩危と祖谷を一つにまとめて、「大歩危祖谷温泉郷」としてPRを開始しました。
行政と地域が連携してPRをおこなった結果、徳島県のインバウンド人気観光地ランキングで「祖谷のかずら橋」が1位を獲得。4位と8位にも「大歩危祖谷温泉郷」のスポットがランクインしました(※4)。
※4)PRTIMES 【独自調査】インバウンド人気観光地ランキング徳島編
2.22 香川県
香川県の外国人延べ宿泊者数は、2013年以降は全国平均以上の伸び率を維持し、2016年には前年比 70.3%増と全国で1位の伸び率を記録しました(※5)。特に瀬戸内国際芸術祭はインバウンドに人気で、2019年の総来場者のうち 23.6%(27.8 万人)が外国人旅行者です(※6)。
外国人の宿泊者数がほかの3県に比べると多い香川県は瀬戸内国際芸術祭以外にも、うどん県キャンペーンなどを通じて国内外の観光客を誘致する取り組みを実施しています。
※5)日本政策投資銀行四国支店 インバウンド客が香川県にもたらす地域経済効果の最大化に向けて
※6)原 直行(香川大学) 瀬戸内国際芸術祭におけるインバウンド観光客の実態分析
2.23 愛媛県
愛媛県は、美しいサイクリングロードとして有名なしまなみ街道や四国カルストなど、観光名所の多い地域です。愛媛県のインバウンド人気観光地ランキングの1位は「松山城」。それ以外も上位を占めたのは、松山市内や今治・しまなみ海道エリアのスポットです(※7)。
また、海外に向けてはWebサイト「Experience Ehime Japan」を通じて、愛媛の魅力を動画でPRしています。
※7)株式会社mov 【独自調査】インバウンド人気観光地ランキング愛媛編:コロナ後 最新の訪日客の支持を集めたスポットTOP10を発表
2.24 高知県
高知県は、訪日外国人の宿泊数が伸び悩んでいたため、令和3年度に「高知県国際観光市場別誘客戦略」を立てて実行しています。台湾・香港・中国・韓国のほかアメリカ・オーストラリアなど、市場ごとにターゲット層を設定。それぞれに対する訴求テーマや誘客情報を細かく決めて、PR活動をおこなっています。
一例を挙げると、台湾在住の20~40代の個人旅行者に向けての訴求テーマは、カツオのタタキを代表とする食とレンタカーによる四万十川ドライブ旅行などです。
3.中国・四国地方でおこなわれている広域連携
中国・四国地方では、各県ごとにインバウンド施策がおこなわれているだけでなく、広域連携にも取り組んでいます。
3.1 インバウンドの観光需要を見込んだ広域連携
中国・四国地方と関西地方の観光資源を広域的にネットワーク化することで、観光地全体の質が向上し、世界に向けて競争力を高められます。
中国・四国地方は瀬戸内海・日本海・太平洋に面しています。それぞれの地域で海や島・岬などの自然の景観を満喫できる場所が多いのが特徴です。また、江戸時代以前に建てられた天守が現存している12城のうち半分の6城が中国・四国地方の城です。これらの豊富な観光資源の連携によって旅行者の満足度向上に取り組んでいます。
2025年の大阪・関西万博開催に合わせて、関西では神戸空港の国際チャーター便の就航や「AWAJI島博」が予定されています。ほかにも広島県・福山市では「第20回世界バラ会議」の開催が予定されており、瀬戸内海では「瀬戸内国際芸術祭」が開催されます。
中国・四国地方、そして関西地方との連携を強化して、これらのイベントのインバウンド誘客を成功に導きましょう。
3.2 産業集積地の連携を強化し国際競争力を強化
中国・四国地方は臨海部にコンビナートを擁しています。石油や鉄鋼・化学などの産業や、自動車や造船等の加工組み立て型の産業などの集積地が多く存在しています。
特に、瀬戸内海には造船業に関連する企業が集積しており、中国圏と四国圏で日本の造船関連産業の4割強を占めています(※8)。中国・四国両地域の広域連携によって、国際競争力をさらに強化できるでしょう。
※8)中国圏・四国圏広域地方計画合同協議会 中国圏・四国圏広域地方計画合同協議会資料
3.3 暮らしの安全・安心と防災ネットワークの整備
中国・四国地方は台風や豪雨による水害を受けやすい地域です。そのため両圏域では、瀬戸内・海の路ネットワーク災害時相互応援に関する協定(海ネット協定)が締結されています。
平常時の観光ルート以外に、災害時に避難や物資の輸送で使用する搬送ルートを予め決めて綿密に連携できる体制が整っています。
3.4 瀬戸内海等の環境保全と再生
瀬戸内海はごみの漂流や漂着が課題です。瀬戸内海沿岸の市町村や府県などが集まり、「瀬戸内・海の路ネットワーク推進協議会」による活動を展開。さらに、海洋環境整備船によるごみや油の回収もおこなっています。瀬戸内海を綺麗にする清掃活動を通じて自治体間の広域連携を推進しています。
4.関西・中国・四国エリアのDMO4組織の連携
西日本の広域エリアを一体として観光促進策を行ってきた4つのDMOが広域連携協定を締結しました。DMOとはその地域の観光資源を熟知し、関係者と連携し観光地域づくりをおこなう法人です。今回、広域連携協定を締結したDMOは次の4団体です。
・一般財団法人関西観光本部
・一般社団法人山陰インバウンド機構
・一般社団法人四国ツーリズム創造機構
・一般社団法人せとうち観光推進機構
4組織の連携により、関西や中国・四国地域における訪日外国人旅行者の観光消費額の拡大と持続可能な観光を推進します。
4.1 広域観光を推進し訪日外国人旅行者の流動増に貢献
大阪・関西万博をきっかけとしたインバウンド需要の復活および拡大を見込み、訪日外国人旅行者を各地に誘客するための様々な施策を実行します。
広域連携によって豊富な観光資源をネットワーク化し、コンテンツの充実も図れるでしょう。
4.2 海外に向けた観光情報の発信
4つのDMOの広域連携によって、「万博プラス観光」を共通コンセプトに周遊コースの旅行商品化の促進と情報発信の強化をおこないます。さらに、関西空港をゲートウェイとして交通網の連携を強化し、以下の実現を目指します。
・同一テーマの観光情報や共通コンテンツによる相互PR
・エリア間の相互周遊促進のための観光情報の発信(食、自然、サイクリングなど)
・セールス・プロモーションの共同展開
・持続可能な観光地づくり
上記に加えて、関西・中国・四国の各エリアやそれぞれの地域を結ぶ広域観光を推進。そのために空港や高速道路の周遊割引を実施します。これにより、国際的にも競争力の高い観光地づくりを実現できるでしょう。
5. 中国・四国地方へのインバウンド誘客の課題や注意点
この章では、中国・四国地方へのインバウンド誘客における課題について解説します。
5.1 通過型観光客が多く滞在時間が短い
中国・四国地方は豊富な観光資源に恵まれているにも関わらず、通過型観光客が多くて域内に宿泊してもらえるような滞在型観光客が少ないのが現状です。両地域を日帰りで訪れるものの、宿泊は近隣地方で済ませるという旅行客が多いのが課題といえるでしょう。
5.2 多言語の対応力が不足している
インバウンド集客を強化し、受け入れ態勢を整える際の問題点の1つに、観光関連業種の人手不足が挙げられます。とりわけ多言語対応可能な人材の確保が難しいのが大きな課題です。外国人旅行者の多くが日本に来て困ることとして、言語の問題を挙げています。
今後、大阪・関西万博をきっかけにインバウンドの誘客を増やすためには、多言語の対応力が求められるでしょう。
6. まとめ
訪日外国人旅行者の数は少しずつ回復傾向にはあるものの、中国・四国地方はほかの地域に比べると宿泊者数が増えていないのが実情です。
2025年には大阪で万博も開催され、中国・四国地方でも今後様々なイベントが開催されます。イベントをきっかけとした海外からの来客数増加を目標に、中国四国のDMOが連携してインバウンド需要の拡大を図る取り組みを実施しています。
中国・四国地方へのインバウンド誘客の課題として、通過型観光客が多く滞在時間が短い点や多言語対応の不足が挙げられます。これらの課題を解消し、自地域の魅力を効果的に発信しなければなりません。
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