北海道にも外国人旅行客が急速に戻りつつある中で、インバウンド集客を成功させるには様々な対策を講じなければなりません。その際に、補助金や助成金が活用できれば、事業コストも抑えることができます。「インバウンド集客に活用できる補助金や助成金にはどのようなものがあるのだろうか」。こんな悩みを抱える担当者の方も、いらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、北海道へのインバウンドを受け入れるための補助金や助成金の事例について解説します。また、北海道におけるインバウンド集客の課題や注意点についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
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1.北海道における訪日外国人旅行者の現状と動向
まず最初に、北海道における訪日外国人旅行者の現状と動向について解説します。
1.1 北海道の観光の現状
北海道の観光は新鮮な食材を利用した食事・雄大な景色・多彩な温泉・アウトドアなど、広大な大地と豊かな自然を活かした様々な体験ができるのが特徴です。
しかしながら、長期化した新型コロナウイルス感染症の影響により、訪日外国人旅行者を始めとする観光客全体が大きく減少しました。2020年4月〜6月の北海道への観光客は2019年同期比47.6%減の828万人、外国人はゼロになりました。(※1)。
加えて、原油価格の高騰や電気料金の値上げにより多くの観光ビジネスの経営が厳しくなり、人手不足も課題となっています。
その後、新型コロナウイルス感染症の水際対策が段階的に緩和され、2022年6月には添乗員付きツアーの国内受け入れが再開されました。さらに、同年10月には個人旅行の受け入れや北海道への直行便も再開。2022年度の北海道への訪日外国人旅行者の数は約69万人にのぼり、インバウンドが戻りつつある状況です(※2)。
※1)北海道経済部観光局観光振興課 第5期 北海道観光のくにづくり行動計画 国内観光市場
※2)北海道経済部観光局観光振興課 北海道観光入込客数調査報告書 令和4年度(2022年度)
1.2 北海道観光の施策
北海道は2021年11月に策定した第5期「北海道観光のくにづくり行動計画」の考えに基づき、戦略的なプロモーションや新たなインバウンド対策を進めています。コロナ禍に変化した旅行者ニーズを踏まえて、アジアを始め欧米もターゲットとして取り込む考えです。
具体的には、以下のような施策を推進しています。
・北海道の強みを活かし、旅先で心と身体をリフレッシュする「ケア・ツーリズム」
・北海道産のワインや道内各地の食事が楽しめる「ワイン・ツーリズム」
・北海道の自然や文化を知ってもらう「アドベンチャートラベル」
北海道観光の「くにづくり行動計画」における施策展開方針を、簡単にご紹介します。
<クリーンxセーフティ北海道>
「『安全・安心』で選ばれる観光地づくり」を目指す取り組みです。安全かつ安心できるアウトドア環境を提供し、北海道の価値や優位性を積極的に発信します。
<量x質の追求>
人口減少などにより観光産業の収益拡大が難しい状況において、「満足度向上と連動した消費単価の向上」を目指した取り組みです。
北海道の観光資源を活かした自然環境や食のブランド力強化によって、新規誘客やリピーター客の獲得につなげます。さらに、富裕層向け商品・サービスの充実と質の向上にも力を入れます。
加えて、AIやIoTといったデジタル技術の導入によって人手不足を補いながらコスト削減を実現し、観光客の様々なニーズに対応できる高付加価値化を目指す内容です。
<旅行者比率のリバランス>
旅行者比率のリバランスは、訪日外国人旅行者における「誘客対象の最適化」を目指す取り組みです。訪日外国人旅行者の需要を見直し、東アジアにとどまらず、それ以外の地域からの旅行者の増加を目指します。
<新しい旅行スタイルの推進>
「新たな北海道観光価値の創出」によって観光客の消費額の増加を目指す取り組みです。繁忙期と閑散期の差をなくして観光消費額を増加させることを目的としています。観光客に自然や文化を体験し、北海道の良さを知ってもらって長期滞在を促進します。
<観光インフラの強靭化>
広域観光の拠点として、道内空港やターミナルを利用してもらえるように利便性の向上を図り、観光インフラを支える人材の確保や育成を目指す取り組みです。災害が起きた際の訪日外国人旅行者への情報発信や、安全な避難場所などの受け入れ体制の整備も含みます。
<推進体制の強化>
北海道観光に関する各種施策を実現するべく、観光関係団体との連携および安定的な財源を確保できるような体制づくりを強化します。
1.3 北海道における訪日外国人旅行者の特性
ここでは、北海道における訪日外国人旅行者の特性についてご紹介します。
新型コロナウイルス感染症の水際対策が緩和され、2022年度に北海道を訪れた外国人旅行者数は約69万人を記録しました。
内訳としては、アジア圏からの来道者が最も多い57万4,400人。国・地域別で見ると、韓国が最も多く21万8,900人、次いで台湾の13万4,400人、香港6万7,800人という結果でした。欧米諸国では、最も多いアメリカが3万6,600人、カナダが7,400人といった状況です(※3)。
また、北海道内の訪日外国人旅行者の宿泊延べ数は、北海道全体で195.0万人。そのうち道央圏が138.9万人、道北圏の31.8万人、道南圏の12.8万人となっており、道央圏に集中していることがわかります(※4)。
地域活性化のためには、道内各地の観光コンテンツの拡充およびサービス水準の向上を図り、旅行者を各地域へ分散させる対策が必要です。
※3) 北海道経済部観光局観光振興課 訪日外う国人来道者数(実人数)「国・地域別」
※4) 国土交通省 北海道運輸局 北海道の観光基礎データ「北海道観光の構造的課題(1) ー観光入込の道央圏への集中」
2.北海道へのインバウンドを受け入れるための補助金・助成金の支援策を紹介
北海道では、観光振興に役立てられる様々な補助金や助成金があります。その中でもインバウンド対策に活用できる補助金や助成金の支援策をいくつかご紹介します。
2.1 インバウンドに関する補助金・助成金とは
インバウンド集客に向けた事業開始や環境整備のために、政府や自治体が補助金・助成金を用意しています。ICT・交通インフラ・インバウンド受け入れ環境などを整備して、訪日外国人旅行者の周遊の促進や消費拡大を図るために活用されます。
なお、補助金は申請後に審査によって採択される必要があり、助成金は所定の資格要件を満たせば受給されるのが、両者の異なる点です。どちらも返済義務はなく、国や自治体の政策目標に沿った事業の実施をサポートしてくれる点に違いはありません。
以下、具体的な補助金・助成金の事例です。
2.2 事例①「地域雇用活性化推進事業」
インバウンド集客への取り組みは、地域産業発展の一助となっています。外国人旅行者を受け入れるためには、宿泊スタッフなど新たな働き手の確保や人材育成が必要です。
<概要>
企業の魅力向上や地域産業の発展が期待できる活動に対する支援策です。企業の未来を担う人材の雇用や育成など、新たな雇用創出に対して効果があると判断されたものも支援の対象となります。
<補助額>
補助金額は年間最大4,000万円。複数の市町村で連携して取り組みをおこなう場合は、1地域あたり2,000万円上乗せされます。上限は1億円です(※5)。
※5)厚生労働省「地域雇用活性化推進事業のご案内」
2.3 事例②「地域公共交通協働トライアル事業」
上述のように、外国人旅行者は道央圏に集中しています。道内の各地域へ分散させるためにも二次交通への利用促進と、公共交通機関の維持は欠かせません。
<概要>
複数市町村にまたがる交通圏全体の利便性向上に向けた取り組みへの支援策です。
<補助額(補助率)>
都道府県および複数の市町村を構成員に含む法定協議会に対しての補助金額は、上限1,500万円(補助率1/2)。それ以外の単独市町村などに対しての補助金額は、上限500万(補助率1/2)です(※6)。
※6)国土交通省 北海道運輸局「地域公共交通協働トライアル推進事業」
2.4 事例③「観光施設受入環境整備(魅力アップ)補助事業」
外国人旅行者を受け入れるためには、多言語表記やキャッシュレスの導入は必要不可欠です。また、多言語に対応できる従業員の採用や研修の実施が、外国人旅行者の利用促進につながります。
<概要>
札幌市内の観光施設がおこなう施設利用単価を上げ、収益力を高めるための受入整備にかかる経費の一部を補助する支援策です。
<補助額(補助率)>
多言語対応の看板やキャッシュレス機器導入などのハード事業に対しての補助金額は、1施設あたり上限1,000万円(補助率1/2)。外国語表記のチェックや施設が実施する外国語研修のコンサルティング費用などのソフト面に対しての補助金額は、1施設あたり上限150万円(補助率2/3)です(※7)。
※7)北海道札幌市「観光施設受入環境整備(魅力アップ)補助事業」
2.5 事例④「北海道函館市商店街等持続化支援事業補助金」
継続的なインバウンド集客を図るには、外国人旅行者の満足度向上が必要です。そのためにも、インバウンドのニーズに適応した商店街づくりをしなければなりません。
<概要>
インバウンド受入に対する経営環境整備の支援が目的です。北海道函館市内の商店街における、多言語表記や体験プログラムなどの受入整備に関する事業に対して支援がおこなわれます。
<補助額(補助率)>
補助金額は200万円(補助率2/3以内)です(※8)。
※8)北海道函館市「函館市商店街等持続化支援事業補助金」
3.北海道の補助金・助成金を使ったインバウンド施策事例
この章では、北海道の補助金や助成金を使ったインバウンド施策事例をご紹介します。
3.1 徹底した感染対策で北海道観光を世界基準に「株式会社萬世閣」
株式会社萬世閣は、洞爺湖・定山渓・登別の3つの地域でホテルを運営している企業です。新型コロナウイルス感染症の影響により、団体ツアーや修学旅行、個人客のキャンセルが相次ぎ、2020年4月から6月にかけて休館を余儀なくされました。
インバウンドは2019年の7.3%に落ち込み、売上高も2019年の15億9000万円から、2020年度は3億5000万円まで大きく減少しました(※9)。
そこで、国と自治体のコロナ特別貸付を利用し、AI顔認証システム付サーモグラフィーと混雑状況通知システムの導入による三密回避を徹底。さらに、次亜塩素酸水生成器や空間除菌清浄機を導入し、宿泊者に「北海道コロナ通知システム」への登録も促すなど、宿泊客の安心安全の担保に努めました。
また、今後のインバウンドにも適応していくために、海外の大学生のインターンシップや特定技能・技能実習制度を活用した優秀な海外人材確保に積極的に取り組んでいます。
※9) 経済産業省「ミラサポplus中小企業向け補助金・総合支援サイト」株式会社萬世閣
3.2 外国人スタッフを採用し、インバウンドへのサービス向上を実現「株式会社はなまる」
株式会社はなまるは、北海道産の素材をメインとした「回転寿司 根室花まる」を運営している企業です。
急増するインバウンドに対応する人材確保が急務だった「根室花まる」は、各店舗で留学生のアルバイトが働いていた実績も踏まえ、外国人の採用強化を決断しました。
2020年度の「地域中小企業人材確保支援等事業の支援制度」を活用し、国内外の人材確保イベントや合同説明会にも積極的に参加し、人材の発掘をおこないました。さらに、自社の教育機関である「花咲学校」にて、社員として必要な基礎を一から学べる体制づくりもおこなっています。
その結果、外国語メニューの作成や外国語での接客など、サービス向上が実現しました。新人教育を見直す機会にもなり、外国人従業員の離職も減少するなどの成果も出ています。
4.北海道におけるインバウンド集客の課題
この章では、北海道におけるインバウンド集客の課題について解説します。
4.1 観光入込が道央圏へ集中してしまっている
上述のように、2022年度の北海道全体の訪日外国人宿泊延べ数195万人に対し、全体の約7割にあたる138.9万人が道央圏に集中している状況です。
その背景として、主に以下のような要因が挙げられます。
・出入国者数の約9割が新千歳空港に集中
・道内の宿泊施設数の約4割、国際観光ホテルの約4割が道央圏
・免税店の約8割が道央圏に集中
・クルーズ船の寄港が多いのは道央圏
・レンタカー事業者の約4割、レンタカー車両の約6割が道央圏に集中(※10)
北海道全体で訪日外国人旅行者を増やすには、道内各地の空港・ターミナルと二次交通との連携強化による利便性の向上が求められます。
※10)国土交通省 北海道運輸局 観光ビジョン推進北海道ブロック戦略会議「北海道観光の現状」
4.2 観光入込が繁忙期と閑散期で差が激しい
北海道の訪日外国人旅行者が減少する時期は3月〜6月と9月〜11月で、全国的には繁忙期にあたる4月が最も少ない状況です(※11)。
訪日外国人旅行者の最も少ない月と最も多い月の差は2.7倍にもおよび、繁忙期と閑散期での差が激しいのが特徴です(※12)。繁閑の差が激しい状態では雇用の安定にもつながりません。
訪日外国人旅行者を安定的に確保するためには、観光コンテンツの拡充に加えてサービス水準の向上を図る必要があります。
※11)国土交通省 北海道運輸局 北海道の観光基礎データ
※12)国土交通省 北海道運輸局 観光ビジョン推進北海道ブロック戦略会議で掲げた課題に係る数値目標の進捗状況について
5.北海道におけるインバウンド集客の注意点
この章では、北海道におけるインバウンド集客の注意点について解説します。
5.1 ターゲットに合わせた適切な発信手段を選ぶ
インバウンド集客で大切なのは、集客したい外国人旅行者の層を明確に決めることです。そのためには、ターゲットとなる外国人旅行者が何を求めているのかをしっかりとリサーチしなければなりません。
どの層にも当てはまるようなアプローチの仕方では、外国人旅行者の心をつかめないでしょう。ターゲット層に人気の高い商品やサービスを理解したうえで、効果的なアプローチをおこなう必要があります。
5.2 オーバーツーリズムに注意する
訪日外国人旅行者は、個人のブログやSNSなどのインターネットで情報を収集するケースが多いのが特徴です。
ターゲット層がよく利用しているツールはSNSなのか、旅行系Webサイトなのかをしっかりリサーチして、適切なツールで発信するようにしましょう。
5.3 既存客への影響も考慮する
オーバーツーリズムとは、日本語に訳すと「観光公害」。観光客の増加により、観光地の地域住民・自然環境だけでなく観光客自身にもマイナスの影響を与えることです。
具体的には、文化の違い・ルールの違いが元で起こるトラブルや、ゴミ捨てなどによって自然や景観が損なわれるケースが考えられます。さらに、地域住民とのトラブルや公共交通機関の混雑による満足度の低下なども懸念されます。
オーバーツーリズムを防ぐためにも、ルールの周知を図りマナーを守ってもらう必要があります。訪日外国人旅行者の異文化に対する興味関心が失われないよう、自治体と地域住民の協力が不可欠です。
5.4 既存客への影響も考慮する
インバウンド集客を積極的におこなう一方で、既存客への影響も考えなくてはいけません。言葉や文化の違いから外国人旅行者への対応に時間がかかってしまったり、お店の混雑により既存客が入店できなかったりといったケースも考えられます。
インバウンドに対応したメニュー表示や外国語が話せるスタッフの確保だけでなく、既存客の意見に耳を傾けることも大切です。
6.まとめ
2022年度に北海道を訪れた外国人旅行者は約69万人を記録し、感染拡大前の2019年度の約8割まで回復しました。しかしながら、外国人旅行者の約7割が道央圏に集中しているのが現状です。
訪日外国人旅行者を北海道全体へ分散させるためには、道内各地の空港・ターミナルと二次交通との連携を強化し、利便性の向上を図る必要があります。
インバウンド集客に向けた環境整備には、政府や自治体による補助金・助成金が活用できます。今回ご紹介した補助金・助成金の事例を参考にして、インバウンド集客を成功させましょう。
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