本記事では、中国市場への投資動向ならびにビジネス展開する際の手順とメリット・リスクを解説します。加えて、ビジネス展開で成功する企業と失敗する企業の特徴と、実際に進出している成功事例と失敗事例を詳説。中国へのビジネス展開を検討している企業のご担当者は参考にしてください。
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中国市場には、日本を含めて世界各国の企業が投資しビジネス展開しています。
「中国への投資動向はどうなっているの?」
「中国でビジネス展開するメリットとリスクを知りたい」
このようにお考えの企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、中国への投資動向と中国市場でビジネス展開するメリット・リスクと課題に加えて、ビジネス展開する際に必要な手順ついて解説します。
中国へのビジネス展開で成功する企業と失敗する企業の特徴や、具体的な中国ビジネスの成功事例と失敗事例も併せてご紹介しますので、参考にしてください。
1.中国への投資動向
外国への投資動向はFDI(Foreign Direct Investment)の数値にて判断します。FDIとは海外で経営や技術提携を目的に直接投資をおこなうことです。FDIには、現地で会社を設立し販路をつくる形態と外国企業を買収する形の2パターンが存在します。
本章では、中国への投資動向ならびに中国で伸長している業界について解説します。
1.1 海外から中国への投資動向
ジェトロ(日本貿易振興機構)の資料によると、2023年の諸外国から中国への直接投資(FDI)は、前年比8.0%減少の1兆1300億元(約22兆6762億円)でした。不動産市場の低迷が長期化しており、景気の先行きの不透明感などが要因として考えられます。
ただし、新設された外資系企業の数は前年より約40%増となっており、投資額は減少したものの高い水準で推移しています(※1)。
※1)ジェトロ(日本貿易振興機構) ビジネス短信「中国、2023年の外資利用額は前年比8.0%減、製造業・サービス業ともに減少」
1.2 日本から中国への投資動向
日本から海外への対外直接投資額は、2022年時点で 23兆2,024億円。そのうち中国への直接投資額は1兆2,070億円です。対外投資先としては1位の米国、2位のオーストラリアに次いで中国は3位です。4位はオランダ、5位は英国と続きます(※2)。
欧米企業においては大型投資は活発なものの、中小企業は低水準です。一方、日本は大企業から中小企業まで幅広い分野での対中投資が進んでおり、なかでも非製造業の直接投資が進んでいるのが特徴的です。
※2)ジェトロ(日本貿易振興機構) 地域・分析レポート「日本企業は対中投資に及び腰か?」
1.3 中国で伸長している業界
中国商務省の発表によると、直近2024年1〜2月のFDI(直接投資)は2151億元で前年比19.9%の減少という結果でした(※3)。前年比は減少したものの、下記の業界では好調に推移しています。
● ハイテク産業:714億4000万元でFDI全体の3分の1を占める
● 建設業:前年比43.6%増加
● 卸売・小売業:前年比14.5%増加
中国では、海外機関に対して中国国内市場での人民元建て債券の発行を支援するなど、海外からの直接投資を誘致するために様々な措置を講じています。
※3)ロイター通信 中国への海外直接投資、1─2月は前年比19.9%減=商務省
2 中国市場でビジネス展開する4つのメリット
巨大な中国市場でのビジネスは企業にとって魅力的です。ここでは、中国市場でビジネス展開する4つのメリットについて解説します。
2.1 世界最大規模のマーケットへの進出
中国はGDP(国内総生産)で米国に次いで世界2位の経済大国です。ジェトロの資料によると、中国の2023年の実質GDP成長率は前年同期比5.2%でした(※4)。
また、中国の消費財の小売売上高は、前年比7.2%増の47兆1,495億元で過去最高を記録しました。なかでも、サービス小売売上高は前年比20.0%増と大幅に増加。アフターコロナにおいて、文化・観光消費市場が急速に回復しています(※5)。
世界最大の規模を誇り、かつ成長を続ける中国市場への進出は企業にとって多大なメリットが期待できるでしょう。
※4)ジェトロ(日本貿易振興機構) ビジネス短信「2023年の実質GDP成長率は5.2%、全人代で設定した目標を達成」
※5)新华网NEWS 2023年我国消费市场持续恢复回升
一般社団法人日本投資促進機構 【2023年、中国の消費者市場は回復傾向】(その他)
2.2 経済特区や開発区の恩恵
中国では外国企業の誘致を目指して、経済特区と経済区を設定しています。
● 経済特区:税制優遇や規制緩和などの特別な措置を受けられる地域
● 開発区:工業建設などを優先的に奨励する特殊政策地区
経済特区および開発区では、企業所得税の免除および軽減税率が適用されます。なかでも、経済特区の外資企業は経営自主権を持つことができ、土地使用権を取得できるのが特徴です。
2.3 豊富な労働力と安価なコスト
中国では、近年若年層の失業率が上昇しており、2023年12月の16歳~24歳の失業率は14.9%にのぼります(※6)。失業率の高さは社会問題となっており、買い手市場の状態です。
それゆえ、外資企業にとっては労働力を確保しやすい点がメリットといえます。人材不足の日本では実現の難しい大規模なビジネス展開も可能です。
※6)独立行政法人労働政策研究・研修機構 若年失業率の発表を再開 ―従来の算出方法を見直し
2.4 EC市場の規模も大きく参入しやすい
中国では、新型コロナ禍の影響で市場のオンライン化が加速し、EC市場の規模も急拡大しています。2022年の中国のEC市場規模は、約2兆8,790億ドルで前年比 9.1%の増加。BtoCのEC市場シェアで全世界の約半分を占める世界一の市場です。そのうち、海外から商品を輸入する越境EC市場の規模は1,653億ドルです。
なお、越境EC を活用して日本の商品を購入したい理由としては、「国内にないものを購入できる」「高品質」などが挙げられています(※7)。
巨大な中国のEC市場は、今後も拡大が見込まれます。中国市場のニーズに合った商品やサービスを展開できれば、新たな売上につながる可能性があるといえるでしょう。
※7)経済産業省 令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書
3 中国への投資やビジネス展開のリスクと課題
中国への投資やビジネス展開を検討するにあたって、様々なリスクや押さえておくべきポイントがあります。いわゆるチャイナリスクと呼ばれる各種リスクやビジネス展開における課題を、事前に把握しておきましょう。
3.1 中国を取り巻く国際情勢の変化
中国を取り巻く国際情勢はめまぐるしく変化しています。米中関係の悪化のほか、人権問題や台湾に対する圧力などへの国際社会からの批判の高まりも経済に影響しています。
また、中国では2013年に習近平国家主席が経済圏構想「一帯一路」を提唱。アジアとヨーロッパを陸路および海上航路でつなぐ物流ルートを構築し貿易を活発化させ、経済成長につなげようという狙いがあります。
日本企業にとって、一帯一路との関係構築は大きなビジネスチャンスであると同時に、参加国の政情不安や国際情勢の変化などの影響を考慮しなければなりません。
3.2 法規制や制度の違い
近年、中国では民事取引や外商投資、独占禁止や不正競争防止などの様々な分野において法体系の整備が急速に進められています。しかしながら、日本とは異なる法規制や制度があるため、違いを正しく理解しなければなりません。
まず、中国では国家全体の法律と地方ごとの法律が並存しています。また、法改正のペースが早く、行政許認可の要求の多さも日本とは異なる特徴です。
また、スパイ行為を取り締まる目的で反スパイ法が制定され、日本人を含む外国人が拘束される事件が発生しています。出張者や駐在員が反スパイ法違反の嫌疑をかけられる等のトラブルに巻きこまれないように、十分注意する必要があります。
3.3 主要国のサプライチェーン再構築
米中対立の影響など様々な要因により、サプライチェーンの再構築が進んでいます。通信業界などの一部業界では、中国から東南アジア地域に生産拠点の移管が進んでいます。
中国では、自国企業は政府による補助金交付など優遇措置がある一方、外資系企業には現地調達推進などの各種規制が導入されています。中国への投資やビジネス展開を検討している企業は、サプライチェーンの持続性を考慮し再構築の必要性を検討しなければなりません。
3.4 知的財産の保護への不安
中国では、知的財産を保護するために特許出願と商標出願が年々増加しています。知的財産権の民事訴訟の増加もその一因といえるでしょう。
知的財産の保護を目的とした特許や商標出願件数の急増により、品質の低いもしくは悪意のある商標出願も増えています。そのため、中国政府は知的財産権保護政策を打ち出し、知的財産権保護センターや快速維権センターを設立するなどの対応を講じています。
審査官の増員や法律改正などめまぐるしく変化を遂げていますが、いまだ模倣品や商標の無断出願についてはリスクが高い点に注意が必要です
3.5 人件費の高騰などによるコスト増
中国では人件費の高騰が続いています。中国各地における月額最低賃金は、北京市が2,420元で前年からの引き上げ率は4.31%、上海市が2,690元で引き上げ率は3.86%です。北京市では、2010年に960元だった最低賃金が13年間で2.5倍に上昇しています(※8)。
ここ1〜2年の引き上げ率は鈍化傾向にあるものの、人件費の高騰はこれからも続く見込みです。また、中国は労働紛争が日本より多い点もリスクといえるでしょう。
※8)独立行政法人労働政策研究・研修機構 9地域が最低賃金の引き上げを発表 ―2023年7月時点
4.中国へのビジネス展開で成功する企業と失敗する企業の特徴
中国へのビジネス展開を検討する企業にとって、成功している企業や失敗している企業の特徴を理解することはとても重要です。それぞれの特徴を理解したうえで、自社に適した形のビジネス展開を模索しましょう。
4.1 成功:トップ層の主導による参画
中国へのビジネス展開が成功している企業の多くは、トップ主導で行動しています。トップ主導の場合は、組織として予算編成から行動計画を一気に策定可能です。トップダウンで意思決定がおこなわれるため、速やかに判断・実行できるのがメリットです。
欧米企業は担当者ベースではなくトップ主導型で参画している場合が多く、成功事例も多数見受けられます。迅速なマーケティング施策も成功の秘訣といえるでしょう。
4.2 成功:適応力があり情報の収集・把握に長けている
中国は日本に比べて圧倒的に人口が多く、2019年には1995年〜2009年までに生まれたZ世代の人口が約2億6,000万に達しました(※9)。
Z世代は、コミュニケーション手段としてSNSや動画を中心に情報収集している割合も高く、SNSを通じて個人の嗜好や流行は目まぐるしく変化しています。これらの変化への適応と消費者ニーズの把握が必要不可欠です。
個人型消費行動のBtoCの市場は、SNSなどの影響を受けやすいのが特徴です。トレンドや消費者の動向などの迅速な収集収集と適応力が、成功への近道だといえるでしょう。
※9)ジェトロ(日本貿易振興機構) これからの消費の牽引役-Z世代の攻略法を探る(中国)
4.3 成功:現地でネットワークを構築している
中国では、独自のインターネットの検閲・ブロックシステムが敷かれています。金盾(きんじゅん)」と命名されており、ファイアーウォール機能による検閲がおこなわれています。
このように独自のインターネット環境が存在するため、中国でのビジネス展開には金盾(きんじゅん)に対応したネットワーク構築が必須です。
4.4 失敗:中国の法規制や制度に対する理解が少ない
中国には日本とは異なる法規制や制度があるため、その違いを理解していない状態で中国市場に進出しても失敗するリスクが高まります。
失敗事例として挙げられるのは、取り扱う商品が中国では販売禁止だったケースなどの法律や制度の確認不足や、掲載予定のECサイトにおける申請の不備です。中国では法律や制度が常に変化しているため、最新の情報を逐一確認しなければなりません。
4.5 失敗:自社の事業や課題とマッチしない中国ビジネスの専門家をアサインしている
中国でのビジネス展開を検討する際に、自社の事業や課題にマッチしない現地パートナーや案内役をアサインしても、成果は見込めません。現地の様々な事情に精通し、かつ自社の商品やビジネス展開とマッチする専門家に依頼するようにしましょう。
5.中国市場でビジネス展開する際に必要な手順
続いて、中国でビジネス展開をする際に必要な手順を解説します。中国現地で会社を設立する際の方法と注意点についても解説していますので、参考にしてください。
5.1 会社設立形態
中国で会社を設立する際には、次の3つの形式があります。
● 現地法人
● 支店
● 駐在員事務所
現地法人は中国に法人として拠点を置く形式で、支店と駐在員事務所は日本にある親会社の一部として対応する形式です。
駐在員事務所は、製品の市場調査や展示および宣伝を目的としているため、直接的な営利活動が禁止されている点に注意しましょう。
5.2 工商局や公安局への届出
中国で現地法人を設立する際は、様々な手続きが必要になります。法人登記の申請にあたって、おおまかな流れは以下のとおりです。
● 工商局:企業設立申請・登記、営業許可証の発行など
● 公安局:社印・契約印の作成
● 銀行や外資管理局など:外貨取り扱い申請と口座開設
● 銀行:資本金の検査
● 税務局:それぞれの登記
● 会社設立
ここまでの手続きで、約2か月近くの日数を要します。事前にスケジュールを策定しておきましょう。
5.3 法人登記する際の注意点
中国では、2020年に外商投資企業に適用されていた外資三法が廃止。新たに外商投資法が施行され、企業進出形態が「有限責任会社」もしくは「外資パートナーシップ企業」へと変更になりました(※10)。
これまで外資三法では、外国法人が中国で現地法人を設立する際の「外商投資企業」は、組織構造により独資企業・合弁企業・合作企業の3つに分類されていました。
新たに施行された外商投資法により、合弁企業の外資出資比率の制限も廃止され、合作企業の新規設立は不可能となりました。法人登記する際は、外商投資法を理解したうえで法人登記する必要があります。
※10)在中国日本国大使館 外商投資法について
6.中国市場におけるビジネス展開の成功事例と失敗事例
本章では、中国市場でビジネス展開をしている企業の成功事例と失敗事例をそれぞれご紹介します。新たに中国への投資やビジネス展開を検討している企業のご担当者は、ぜひ参考にしてください。
6.1 成功:カルビー
カルビーは、イギリスのポテトチップス会社やアメリカのスナック菓子の受託生産をおこなう会社を買収し、事業を拡大しています。中国では、SNSとEコマースに注力し、アリババなどの中国現地のEコマースを活用して、輸出販売を強化。SNSや大手Eコマースの活用と商品のヒットにより、黒字に転換しました。
6.2 成功:良品計画
無印良品で知られる「良品計画」は、現場の声を取り入れたMUJIGRAMと呼ばれるマニュアルを都度更新するなど、人材育成に力を入れています。現在も新店舗を展開するなど中国市場で成功している企業です。
現地スタッフである中国人のキャリアへの考えにも対応するため、専門販売員という職種を設置しています。様々な職種にチャレンジしやすい制度となっており、離職率の軽減にもつながっています。
6.3 失敗:大手機器メーカー
成功事例だけでなく、文化や商慣習の違いによる日本のある大手機器メーカの失敗事例をご紹介します。この機器メーカーは、中国経済の減速の影響を受けて中国に設立した工場の売却を決定しました。従業員は新会社に引き継がれるとされていました。
ところが、文化の違いにより現地の従業員は補償金を要求してストライキを敢行します。最終的には、職場への復帰を条件として多額の補償金を支払う結果となりました。
7 まとめ
本記事では、中国への投資動向やビジネス展開のメリットならびにリスクと課題に加えて、中国市場でビジネス展開する際に必要な手順ついて解説しました。
中国のGDP成長率は少しずつ鈍化しているものの、世界第2位を誇ります。また、2023年の直接投資(FDI)は前年よりも減少しているものの、ハイテク産業などは好調に推移しています。
中国へのビジネス展開はメリットが多い反面、リスクや課題もあるので注意が必要です。日本とは異なる法規制や商慣習ならびに、トレンドや押さえておくべきポイントを把握するようにしましょう。
中国への直接投資やビジネス展開を検討している方は、本記事で紹介した成功事例や失敗事例も併せて参考にしてください。
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