台湾のショッピングモール開発大手、ブリーズグループ(微風廣場實業股份有限公司、BREEZE DEVELOPMENT CO., LTD.)にインタビューを実施。 グループは新型コロナウイルスの影響を受けつつも、業績を安定させています。 ブリーズグループ 小森大資執行常務取締役室マネージャーより、台湾市場の特性や日本企業が進出する際の成功の秘訣についてお話をお伺いしました。
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今回は、台湾のショッピングモール開発大手、ブリーズグループ(微風廣場實業股份有限公司、BREEZE DEVELOPMENT CO., LTD.)にお話をお伺いしました。
ブリーズグループは 2019 年に微風南山(ブリーズ南山)をオープンさせたことは記憶に新しいが、その際に飲食関連の比率を40%超まで引き上げる戦略を掲げた。
特にアジア最大規模の敷地面積約 2,222 坪を誇る微風超市(ブリーズスーパーセンター)は大きな反響となった。しかしオープンから 2 年を待たず、台湾でも新型コロナウィルス感染症の影響を受け商業施設への人の流れは大幅に減少。ブリーズの小森大資執行常務取締役室マネージャーはインタビューの中で、コロナの影響はブリーズ南山だけでなくグループ全体の試練であったことを明かした。
今回のインタビューでは、来台して6年を経た小森氏に日々の台湾の市場の観察や研究などから、日本市場と台湾市場の相違点、台湾市場へ日本企業が進出する際の要点について、デベロッパーの視点から分析していただいた。

【写真1】ブリーズの小森大資執行常務取締役室マネージャー(写真提供:マイクロアド台湾)
前述の通りブリーズグループは新型コロナウィルス感染症の影響を大きく受けた。小森氏は「一般論として商業不動産の営業収入は各店舗からのテナント料で、商品売上そのものではありません。従って、防疫対策による集客の減少はまず各テナントの売上に影響し、その後一定のタイムラグを経て商業施設の収益に影響を及ぼしました。台湾の防疫措置は日本よりも厳しかったため必然的にネガティブな影響はより大きい結果となりました。」と語っている。
現在はフロアのリニューアル等を経て業績も安定していると小森氏。業界の特徴や課題を台湾に在住しながら真横で見てきた小森氏は、日本企業が台湾で成功する秘訣について次のように話した。
型にはまることなく、日台市場の相違点を理解する事が重要
ここ数年で台湾は大きく経済成長しました。ご存知のとおり半導体やテクノロジー産業が牽引し、その卓越した技術は世界からも注目を集めています。一般的に経済成長をするとその国の消費社会にも大きな影響を及ぼします。生成AIの発達や、エネルギー技術など、台湾の新技術は今後も台湾経済の成長のエンジンとなりますが、一方でもうひとつの成長エンジンとして、台湾国内の内需経済の拡大が挙げられます。日本のGDP では現在内需経済がおよそ70%を占めるのに対し、台湾はまだ60%。日本とは10%の差があります。インフラが整い、高品質なモノやサービスにあふれた高度消費社会の日本に比較すると、台湾はまだまだこの点において見劣りします。例えば、台湾は工業国の色合いが未だ強いため、年間の休日・祝日が日本と比較して少なく、国民の休日がサービス業を活性化させると考えている日本社会と違い、台湾では休みは工場をストップさせることへの抵抗といった価値観に留まっているのも特徴的です。
戦後の日本には、計画経済を推進しできる限り平等な社会を目指した歴史背景がありますが、当然台湾にはそれがありません。従って、台湾社会は資本主義ですが基本的にはストレートな自由経済が採用された社会。つまり労働者よりも資本家に譲られた格差社会です。しかし最近は、台湾の経済成長を背景に社会の様子も少しずつ変わってきました。賃金は上昇傾向で資本家による一方的な雇用調整も難しくなりました。誰もが安心して生きていける大衆中心の社会が生まれつつあります。特にZ世代を中心とした若者の金銭感覚や価値観は、他の先進諸国とほぼ変わりません。先ほど指摘した台湾の内需拡大、つまり消費の主役が豊かな中間層によって支えられる社会への転換期にまさに今差し掛かっていると考えられます。
こういった社会的な背景から、日本で培われたブランド商材やサービス業が受け入れられる土壌がようやく整ってきたとみるべきでしょう。これまで台湾進出が上手くフィットしなかった、日本の中間層向け商材やサービスが、台湾で普及するのタイミングがやっと整ったのだと考えています。簡単に言えば、日本商品を日本人のように受け入れる余裕ができたということです。
例えば今後不動産価格の調整が起こり、一般的な台湾の方も住宅購入に手が届くようにもなるかもしれません。台湾国内により整った交通インフラや、国際的なレジャー施設が増えることで、台湾人のQOL
が一段と向上することも考えられます。そうすればこれまでレジャーと言えば海外旅行一辺倒だった台湾消費者の行動が変化し、多くの台湾人が台湾国内でより多くの消費するようになることも充分に考えられるのです。内需経済の拡大は次の台湾社会のもうひとつのチャレンジだと思います。
そういった意味で現在は日本企業が台湾市場に進出する好機と言えますが、一方で全ての日本のやり方が通用するほど台湾社会も簡単ではありません。趣味やセンスが個人主義的で自由な台湾人と比べ、最近比較的寛容になってきた日本社会においても、日本人は基本的に「型にはまった」ルールを重視する傾向があります。日本人や日本企業がいかにしてこの「型」と離れた柔軟な対応を認識できるかもまた、日本企業が台湾進出する際に認識すべき点と言えます。
例えば極端な例ですが、台湾ではアロマディフューザーは、ローズ、ラベンダー、リリーなど香りの種類によってSKUが分けられています。調香されたブレンド商品もありますが、せいぜいパリやロンドン(をイメージした)香りといった具合です。どこに置こうが用途はあなた次第ということです。一方で日本では、オフィス用・トイレ用・玄関用など場所によって分けられていたり、朝用・デイタイム用・寝る前用など用途が予め指南されていたりします。これは極めて日本の消費材らしい分類の特徴で、日本人らしい感性だと思います。台湾人にとっては少し窮屈に感じるのではないかと思います。また日本では人気アニメのキャラクターなどを宣伝やパッケージに取り入れて、消費者の「推しキャラ」集団心理を利用して商品購入に繋げようとし成功するケースがよくあります。台湾も同様な戦略はありますが、より日本に比べキャラクターの好みも違い個人的なので、日本の戦略と全く同様のボリュームの結果を得るのは、思いの外難しいと思います。

【写真2】マイクロアド台湾の丸木勇人総経理(左)とブリーズの小森取締役(右)とのインタビューの様子(写真提供:マイクロアド台湾)
日台友好を信じるのではなく、とにかく台湾ファーストであること!
インタビューの最後に、小森氏は台湾へ進出すべきか迷っている企業に対し次のように提案した。
地理的な距離も近く歴史的な背景もあり、経済成長を続けている、そして何より親日な台湾は、日本製の商品やサービスが進出するには非常に適しており、まさに海外進出の第一歩にふさわしい市場だと思います。誤解を恐れずに言えば、台湾で成功できなければ世界で成功することは難しいでしょう。
韓国も台湾と同じように経済発展をしていますが、韓国は国内メーカーが多く日本商品を受け入れる余裕は小さいと思います。OEM主体でメーカーが少なく、消費財の多くを輸入に頼っている台湾は「グローバル市場」の中で人口2300万を抱えつつも、日本企業がトライしやすい市場と言えると確信しています。
一方でだからこそ、あまり研究をせずに「親日」というキーワードだけを頼りに、偏見で進出する日本メーカーも居ます。しかしそれこそが一番危険だと指摘しておきます。
中国リスクを過度に意識し台湾投資のタイミングを逃すという場合も、台湾は南国だから冬物衣料はそもそも売れない、と決めつけチャンスをロスするケースもあります。実際は台湾社会は極めて平和で、そして冬は寒いのです。多くの台湾進出を狙う日本企業には日本国内で報道される部分的な情報や偏見に振り回されることなく、台湾市場や社会風俗を冷静に分析し、台湾とは何かについて理解を深めながら、台湾市場に寄り添うような進出を望んでいます。「日台友好」とは台湾の消費者が日本のスタイルをそのまま受け入れるという意味ではありません。「親日」は商品購入の条件には必ずともならないということを指摘させてください。台湾に限らず海外市場でのビジネスで最も必要なのは、その国に住む人たち(今回の場合では台湾人)を最優先に考える「現地ファースト」の意識を持つことだと言えます。
マイクロアド台湾の丸木勇人総経理は、インタビューを通じて小森氏が述べた「内需の持続的な拡大」と「親日とは台湾で販売する上での必要条件ではない」という2つの要点についての更に踏み込んだ説明として、「最近私たちも多くの台湾ブランドと日本ブランドのコラボレーションを目にするようになり、これまでは日本から台湾への流れが多かったのですが、現在は台湾から日本へ流れるトレンドも見られるようになっていると思います。また、台湾市場の内需の持続的な拡大は台湾では既に予測可能なこれからの未来を創る可能性となっています。こういった背景の元求められるマーケティングも変化が起きています。今後もマイクロアド台湾は今後より自信を持って日本企業の台湾進出と事業成長をお手伝いします。これは決して日本ブランドの台湾での知名度向上に貢献するといっただけではなく、今回のインタビューにあった通り今後の台湾の内需拡大を見据えた施策も踏まえた、より台湾ファーストの未来に向けてそこに並走するようなお話ができるからです」。マイクロアド台湾は台湾で既に11年目を迎えており、これからも日台企業の橋渡しの役割を果たしながら台湾市場とともに未来へ進んでいきたい。

【写真3】左よりブリーズの小森取締役、マイクロアド台湾の丸木総経理(写真提供:マイクロアド台湾)
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